訳者で内容が全然違う【書評】ニッブルズウィックの牧師

ロアルド・ダールの作品に「ニッブルズウィックの牧師」という短編小説があります。

しかしこの本、本によって内容が異なるんですよね。

本記事では、「ニッブルズウィックの牧師」について解説します。

目次

The Vicar of Nibbleswickeとは

小説の原題は「The Vicar of Nibbleswicke」。
直訳したタイトルは「ニッブルズウィックの牧師」または「ニーブルスウィックの牧師」になります。

日本語訳の本は二冊あり、次のような名前になっています。
いずれも評論社より刊行

  • したかみ村の牧師さん(柳瀬尚紀 訳)
  • ねぶそくの牧師さん(久山太一 訳)

ロアルド・ダールの最期の作品で、言葉遊びがユニークな一冊です。

原書はこちら

なぜ日本語訳が異なるのか

本書は、牧師さんの言い間違いが肝となります。

牧師さんは言語障害があります。そのせいで会話の一部(単語)が変になるのですが、変になる方法が訳によって異なるのですね。

例えば、原書に「かわいい犬ですね」という牧師さんのセリフがあります。
単語の一部がアベコベになり、今回は「犬」だけが変になります。

原作は「dog(犬)」が「god(神)」になります。クスリとする間違いですよね。

しかし、ただ単に犬を神に書き替えても、日本語的には面白さが伝わりません。そのため単語が変更。さらに牧師さんの会話内容が変わりました。

【参考記事】翻訳者って凄いんです。翻訳家になろうと思い秒で挫折した話|知られざる苦労とはも併せてお読みください。

The Vicar of Nibbleswickeのあらすじ

どの訳でも、物語の基本的な流れは変わりません。内容は、以下のとおりです。

  1. ある村に牧師の赴任が決まる
  2. 牧師は言語障害があった(完治済)
  3. 赴任ストレスで、言語障害が再発
  4. 会話の一部がアベコベになる
  5. 老婦人と会話
  6. 婦人会と会話
  7. お説教①
  8. お説教②
  9. 村医による診断
  10. 解決策
  11. 完治し愛される牧師になる

上記で5~8の部分で、言語障害が発生します。主に村人との会話パートですね。

この会話が、訳によって異なります。また、障害の発現方法も変わります。それぞれどのようになるか、見ていきましょう。

したかみ村の牧師さん版

本書では、牧師さんの障害が「難語症」になっています。

単語内の文字がアベコベになる症状として紹介されていますね。

例えば、アン・ダラホーさん。作中ではアホンダラーさんになります。逆じゃなく、文字の並びがアベコベですよね。

一見、変化前の元単語が何かわかりづらいですが、それを考える楽しみがあります。「ねぶそくの牧師さん」よりも年長者向けでしょう。

より深く味わうために:ことっとスタート

本書巻末のあとがきで、訳者から次の本が紹介されています。本作に興味がある人は、併せて読んでみてください。

ことっとスタート

漢字多めで、しっかりと読める。大人向けの印象を受けました。

ねぶそくの牧師さん版

本書では、牧師さんの障害が「言語障害」になっています。

単語の文字が逆さまになる症状として紹介されていますね。

例えば、アナベラ・イサクさん。作中ではクサイさん呼ばわり。しかも連呼されて、思わず笑ってしまいます。

元単語がすぐわかるので、とても読みやすいのが特徴ですね。「したかみ村」よりも年少者向けでしょう。

より深く味わうために:恋のまじないヨンサメカ

本書の作中で、訳者から次の本が紹介されています。本作に興味がある人は、併せて読んでみてください。

恋のまじないヨンサメカ

ひらがな多め&優しい文体が読みやすい。子供向けの印象を受けました。

読み比べるともっと面白い!

「The Vicar of Nibbleswicke」は、訳によって内容が変わります。
言葉遊びがユニークで、まるで落語のような楽しみがあります。

個人的には、ねぶそくの牧師さんが好きですね。平易な表現が私好みです。

ぜひ読み比べて、言葉遊びを楽しんでくださいね。

宮本くみこ
ライター
小説・シナリオ・エンタメを愛しています。小説書けずに苦節20年→脚本修行のため公務員辞めて上京→なんか違うと絶望→小説の真髄発見。普段は占いライターしながら小説・シナリオを書いてます。目標は国際アンデルセン賞受賞。「私自身が最高の物語」と自負してます。
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