小説とシナリオって、何が違うんですか?
先日、小説講座に寄せられた質問です。
小説とシナリオ(又は脚本)、似ているようですがかなり違います。
本記事では、小説とシナリオの大きな違いをご紹介します。
なお、シナリオでも映画・テレビ・ラジオ・演劇・ゲームで、それぞれ特徴があります。ジャンルごとの違いはいずれじっくり説明するので、しばしお待ちくださいね。
小説の特徴、シナリオの特徴
小説とシナリオ、それぞれの特徴は、次の通りです。
- 小説:単独で完結する文学作品
- シナリオ:チームで作品を作るための設計図
その上で、次のような違いがあります。
小説とシナリオの違い
小説とシナリオの違いは、次の通りです。
- 映像にできるか
- 心情が直接書けるか
- 書き言葉・話し言葉
- 作品の決定権
- 売れる必要性
- 大多数の人に好かれるか
それぞれ解説していきます。
映像にできるか
一番大きな違いは、映像があるかないか。
小説は何を書いてもOK。脳内で味わうものなので、連想できるものなら何を書いても許されます。
しかしシナリオは、映像にできるものしか書いてはいけません。
映像を取るための指示書なので、映像を伴わないイメージや抽象的な表現はNG。
また、予算がかかり過ぎる脚本も好かれません。
CGで何でも映像化できる時代になりましたが、金銭や大人の事情で映像化できないケースもあります。
シナリオを書く時は、映像及び費用面含め「映像化できるかどうか」を考慮してください。
なお、ラジオドラマは比較的自由です。映像がありませんからね。
ラジオドラマは、小説・シナリオとの中間くらいに思っておきましょう。
心情が直接書けるか
映像化に伴い、心情描写の扱いが大きく変わります。
小説は心情をありありと書くことができます。
第三者の心情を書いてはいけない等の制限はありますが、何を書いてもOK。
むしろ小説では、心の動きを具体的に書く必要があります。
一方シナリオは、心情を直接表現できません。
心情を映像化するために、何かしらの形にして思いを伝える必要があるのです。
シナリオ的に心理描写を書く時は、次のようなテクニックを使います。
- セリフにする
- 行動で示す
- 小道具を使う(シャレード)
これらは一例です。長くなるので、詳細はまた別の機会にご紹介させてください。
上記描写に共通するのは「不自然にしないこと」。
悲しいからといって「私、悲しいんです!」という直接言う人、実生活にあまりいませんよね。
自然な話し言葉を使いつつ、悲しみを表現する。これがシナリオの難しさであり、醍醐味だったりします。
書き言葉・話し言葉
それぞれ書く時、小説は書き言葉、シナリオは話し言葉になります。
似ているようですが、微妙に違うんですよね。
これは「読者にどの形で届くか」に起因します。
小説は本になり、文字媒体で読者に届きます。
シナリオは映像化されるため、音声として視聴者に届きます。
日常会話にないセリフが出ると、シナリオだと不自然。
一方、リアルな会話を小説に持ち込むと「誰が喋っているのかわからない」という事態に陥ります。
※シナリオでも「誰が喋ってるかわからない」現象は起きますが、映像がある分、見分けがつきます。
この微妙なニュアンスを書き分けられると、それぞれのセリフに深みが出ますよ。
作品の決定権
小説は作者一人で完結しますが、シナリオは一人では完成できません。
小説は書き終えたら終わりですよね。修正指示があるとしても、基本的には担当者か編集長くらいでしょう。
一方、シナリオは携わる人が多い。
大抵は撮影前に企画会議をします。監督・スタッフといった制作陣。場合によっては、出資元のスポンサーやテレビ局が絡むでしょう。
多数のスタッフに囲まれて、シナリオを揉み直しします。
建設的な意見もあれば、中にはトンチンカンな修正指示も。どんなにこだわって書いても、理解されなきゃ変更に。また、上の意向に沿っていないと、容赦なく書き直しです。
最終的な脚本の決定権はスポンサーやプロデューサー、監督や全体での総意となるでしょう。
もし「自分の作品にアレコレ言われたくない!」と思うなら、脚本家は諦めましょう。こだわりが強い人は、小説を書いた方が幸せです。
売れる必要性
シナリオには、たくさんの人が関わります。
撮影スタッフだけでなく、宣伝広告スタッフ。映画なら配給元や劇場スタッフ。テレビならテレビ局。もしDVDになれば、DVD制作会社やレンタル業界も絡むでしょう。
映像作品は、多くの人が動きます。そのため、多くの人の生活を支えるためにも、売れる作品が求められるのです。
近年、人気漫画のアニメ化や映画化が多いですよね。あれは一定数のファンがおり、ある程度の収益が見込めるため。つまり「すべらない」から漫画原作の作品が増えたのです。
小説はそこまでシビアではありません。大ヒットしたらメディアミックスで盛り上がりますが、書籍だけなら映像作品ほど人は動きません。
もちろん両メディアとも売れた方がよいです。しかしシナリオは小説以上に人が動くので、より売れるものが求められる傾向にあります。
大多数の人に好かれるか
作品の内容として、大衆受けにも大きな違いがあります。
シナリオは大衆受けを狙う必要があります。
映像作品は、多くの人の目に触れます。映画なら数万人、テレビなら数十万人と、見る人の桁が異なります。
そのため、大多数の人に愛される必要があります。
特に映像は受動的に楽しめる娯楽。不愉快な内容であれば、すぐさま視聴をやめてしまうでしょう。
内容・主人公ともに「多くの人から愛される」がキーワードとなります。
一方の小説は、尖っている方がよい。
読書は能動的に楽しむ娯楽。また、読者&本との対話です。
小説は「いかに感情移入できるか」が鍵となります。
読んでいて「この主人公は私自身だ」と思わせられたら勝ち。読者は物語に没頭してくれるでしょう。
「私自身だ」と思ってもらうには、汚い部分もありありと書く必要があります。
「人は綺麗な部分だけじゃない」とわかっているので、生々しい本音を曝け出されると共感できるのですよね。
もし「汚い部分は隠したい」「綺麗なことしか書きたくない」と思うなら、シナリオを書きましょう。上っ面だけの小奇麗な小説は、人の心に何も残せないことを覚えておいてください。(ただ悲しいかな。こんな本が売れたりしているのが現実だったりしますがね)
小説とシナリオはまったく違う
小説とシナリオの特徴は、次の通りです。
- 小説:単独で完結する文学作品
- シナリオ:チームで作品を作るための設計図
その上で、次のような違いがあります。
- 映像にできるか
- 心情が直接書けるか
- 書き言葉・話し言葉
- 作品の決定権
- 売れる必要性
- 大多数の人に好かれるか
基本的な土台は同じです。しかし細かい部分や求められるものが違うので、それぞれの特徴を押さえておくとよいでしょう。
小説とシナリオ、お互いにそれぞれのテクニックを使用できると、作品を深みが出ます。
ぜひ沢山の作品に触れて、違いを読み取ってくださいね。
参考記事
戯曲とシナリオの違いについてまとめました。
戯曲は特殊な立ち位置です。本記事に沿って解説すると、次のようになります。
- 書き方:シナリオ形式(演劇脚本)
- ジャンル:文学作品
- 評価:単独
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ゲームシナリオの特徴をまとめました。
ゲームシナリオは、通常のシナリオが通用しない場面が多いですね。しかし知っていて損はありません。
強いていうなら、ゲームシナリオはYouTubeシナリオやラノベに近いかも。
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