小説とシナリオって、何が違うんですか?
媒体ごとの違いについて、よく質問をいただきます。
1つずつの特徴は説明できますが、独特の雰囲気を掴むことが重要です。
しかも読み比べが必要なので、なかなか違いを理解しづらいでしょう。
そこで、同じ場面を、小説やシナリオなどで書き分けました。
「どう違うか」、ぜひ読み比べてくださいね。
シチュエーション
今回は、下記の場面を想定して物語を作ります。
主人公は洋服店の店員、山田さくら(24)。
相手は、明らかに似合わないギャル向けワンピースを試着するマダム。
試着したものの、やっぱり似合ってない。
しかし売るために、さくらは嘘を吐く。
なお、媒体により面白さが際立つ瞬間が異なるので、場面や内容に一貫性はありません。言動や考えが異なることをご了承ください。
ジャンルごとのサンプル例
今回使用するのは、次の媒体です。
- 小説
- 映画シナリオ
- テレビドラマ
- ラジオドラマ
- 戯曲&舞台脚本
- ゲームシナリオ
- 漫画原作
- YouTubeシナリオ
これらを書き分けた時のポイントとして、それぞれ解説を付けています。
小説での表現
店内を清掃していると、とあるマダムが声をかけてきた。手にはミニ丈ワンピが握られている。娘さんへのプレゼントだろう。そう思いレジに向かおうとすると、マダムは言った。
「試着できますか?」
一瞬、言葉を失った。どう見ても十代の子が着る服だろう。二十代でもキツイくらいだ。目の前のマダムは、どう見ても六十代。しかし彼女から嘘や揶揄う様子は一切見えない。凛として、本当に試着する気だ。
「どうぞ」私は試着室へと案内した。
小説版の解説
小説最大の特徴は、心情をそのまま書けること。
ただし主人公の心理に限定されるので、他者(主人公以外)の心理は原則書けない。第三者の心理を書く時は、推察か後日伝聞を使います。
今回は一人称、リアルタイムで体験したことを記述しました。
一人称にもバリエーションがあるので、それはまた別の機会に解説しますね。
映画シナリオでの表現
〇渋谷(昼)
多くの人でごった返している。
大通りに面したセレクトショップにマダムが入っていく。
〇セレクトショップ・店内
十代向けのギャル服が店内に整然と並んでいる。
山田さくら(24)、服を畳むなどの清掃をしている。
入店音。
さくら「いらっしゃいませ」
入口にマダムが立っている。
マダム、颯爽と店内に入り、派手なワンピースを手に取る。
マダム「ちょっと」
さくら「はい(といい、マダムに駆け寄る)」
マダム「試着、よろしいかしら?」
映画シナリオ版の解説
映画シナリオの場合、映像にもこだわります。
テレビドラマより費用があるため、渋谷ロケも可能でしょう。ただし、特に意味がない場合は、細かく指定しない方がベター。本当に渋谷でロケできるかわかりませんからね。「繁華街」にしましょう。
観客が劇場でじっくり見ることを想定して作るので、穏やかな流れでも構いません。(ただし面白い方がいいですけどね!)
テレビドラマでの表現
〇繁華街・セレクトショップ
大通りに面したセレクトショップに、マダムが入っていく。
〇セレクトショップ・店内
十代向けのギャル服が並ぶ店内。客はいない。
山田さくら(24)と葵(24)、レジ奥で雑談している。
葵「あー暇」
さくら「今日はダメね」
葵「この店大丈夫かね」
さくら「まぁ平日だし」
葵「本当にいいの? こんな店の副店、受けちゃって」
さくら「……」
その時、鳴り響く入店音。
さくら・葵「いらっしゃいませー」
入口にマダムが立っている。
あまりに場違いな雰囲気に、二人は目をパチクリ。
テレビドラマ版の解説
テレビドラマの脚本で重要なのは、軽妙はセリフ。
テレビは、面白くなければすぐにチャンネルを変えますよね。
そのため視聴者を飽きさせないよう、「面白いセリフ」「わかりやすいセリフ」が求められます。
「家事をしつつ、主婦がながら見できるセリフ」が基準といわれていますね。
今回、同僚を入れて軽いノリを意識しました。映画シナリオと別の話になっていますが、基本的な書き方は同じです。
ラジオドラマでの表現
SE カーテンを開く音
マダム「似合うかしら?」
さくらN「着替えたマダムは……控えめにいっても化け物」
さくらM「本当にコレ買うのか? それとも私のこと試してる?」
さくらN「いろんなことが頭をよぎるけど、本人は本気なんだよな」
さくら「お、お似合いですよ。とても」
マダム「そうよね。じゃあいただくわ」
SE カーテンを閉める音
さくらM「ああ、私って、本当嘘つき」
ラジオドラマ版の解説
ラジオドラマは、音がすべて。映像は何もないので、BGM・効果音・声ですべてを表現します。
役者が一人か二人なので、登場人物は控えめに。また、混同しそうな喋り方にも注意です。
セリフの他に、地の文章(N:ナレーション)と心中のセリフ(M:モノローグ)もあります。NとMは別物なので、自分の中で整理しておいてください。
完成イメージとしては、朗読・朗読劇ですね。
小説の書き方をメインにセリフを強化するように書くと、書きやすいですよ。
戯曲&舞台脚本での表現
とある女性向け洋服店。下手に洋服ラック、上手に全身鏡が置かれている。舞台上には店員のさくらがいる。※紙面の都合上、試着中へ飛びます。
さくら「(上手を覗いて)あのおばさん、本当にあの服買うのかな? だったらチャンス! あの服、倉庫に返そうかと思ってたんだよね。私的にはちょっと。いや、かなーり似合ってないと思うけど、気持ちよくお買いいただこう」
上手から、マダム登場。
マダム「どうかしら」
さくら「まあ! 素敵です、奥様」
マダム「ちょっと派手じゃないかしら?」
さくら「そんなことないですよ。他の店員に聞いてもらいましょう。(下手へ向かって)おーい!」
下手から店員ABC出てくる。
さくら「奥様、よくお似合いじゃない?」
店員A「お似合いです!」
店員B「お似合いです!」
店員C「お似合いです!」
全員「お似合いです!」
マダム「じゃあいただきましょう」
マダム、上手に消える。残った店員たち、ハイタッチ。
戯曲&舞台脚本版の解説
長いですね。ごめんなさい。
他より長くなったのは、登場人物たちのわちゃわちゃを書きたかったから。
役者を見せるのが、舞台の醍醐味ですからね。
今回指示が書いてますが、舞台向け脚本はト書きをほぼ書きません。セリフだけで物語が展開していきます。
また、感情や演じ方は、役者が決めるもの。細かい指示は書けません。そのため、作者が意図せぬ演じ方をすることも。
誤解ないよう書きつつも、役者に委ねるのが戯曲&舞台脚本の面白いところです。
ゲームシナリオでの表現
マダム
お待たせ~▽
マダムの立ち絵、ギャル向けのワンピース着用
さくら
(う、似合わない……)▽
(でも 本人は 似合ってると
思ってる みたいだし。▽
化け物みたい だけど
買ってもらわなきゃ▽
マダム
どう? 似合ってるかしら?
率直に教えてちょうだい▽
さくら
(率直に……)
どう答えますか?
▷褒める
正直に言う
ゲームシナリオ版の解説
まず、書き方の様式が適当です。ごめんなさい。▽で次のセリフに移動します。
会社によって納品形式が違う、コードがあると読みにくい。そのため、今回は雰囲気を味わっていただければと思います。
ゲームシナリオは、PRGやノベルゲームなど、ジャンルによって内容が大きく変わります。
今回は「プレイヤーの選択」を入れてみたのですが、選択できるのもゲームシナリオ特有です。
後戻りできないのも、ゲームシナリオの特徴。
そのため、大事なところは何度も繰り返したり強調する必要があります。
漫画原作での表現
〇渋谷の雑踏
N「渋谷の大通り。華やかで人目につく一方、その多くが一年持たないという。そんな強豪ひしめく渋谷の一等地に、伝説のセレクトショップがあった」
〇渋谷のセレクトショップ(ギャル服専門店)・店内
オシャレな店内で、山田さくら(24)が働いている。
さくらM「私は山田さくら。憧れのお店『○○』で働いて三か月。今日はお客さんが来ないけど、その分しっかり勉強しなきゃ!」
入店音。振り返るさくら。
さくら「いらっしゃいませーって、ええ!?」
入店したのは妙齢マダム。つばの広い帽子にサングラス。ミニ丈のワンピースを着ていて、どう見ても悪趣味。
マダム、ズカズカと店内へ。そしてド派手なワンピースを手にとり、さくらに詰め寄る。
マダム「ちょっと」
さくら「はいぃ」
マダム「試着したいのだけど」
さくら「では、こちらへどうぞ~」
試着室へ消えるマダム。
さくらM「(額の汗をふきふき)ええ、マジですか? てっきり娘さんへのプレゼント用だと思ったのに。ああ、でもあの服のセンスだと、自分用か。どこで買ったのかと思ったよ」
漫画原作の解説
漫画原作は、原作者によって書き方が異なります。
絵やコマ割りまであるネームもあれば、映像作品同様シナリオで書くことも。
最終的に筆者(漫画家)がわかればいいので、どちらでもよいとされます。
漫画原作のポイントは、コマ割りを少なくすること。
コマが多いと、紙面を食いますからね。そのため、一つ辺りのセリフが長くなります。
「コマ割りとかわからないよー」と思っても大丈夫。
漫画家の裁量に任されるので、変更されることもしばしば。セリフやギャグ、見た目などは、追加変更される場合があります。
ただ「どうせ勝手に調整してくれるから」と思わず、原作者としてできることを最大限に行いましょう。
YouTubeシナリオでの表現
私はさくら、24歳。セレクトショップで働くアパレル店員です。
今日は私の店で起こったトンデモナイお客さんについてお話します。
あれは私が入社して三か月目のこと。
さくら「うわー、今日全然お客さん来ないよー。まぁ、接客に慣れてないからありがたいけど」
入店音。
さくら「いらっしゃいませー……って、えぇ!?」
入店したお客さんを見て、私はビックリしました。
お客さんは、マダムという言葉がぴったりの年配女性。どう見てもうちの店の雰囲気に合いません。
店を間違えたんじゃないかな。そう思っている間に、おばちゃんは店内へ。そして一番人気のワンピースを掴んで、私に近づいてきたのです。
マダム「よろしいかしら」
さくら「は、はい」
マダム「これを試着したいのだけど」
さくら「わ、わかりました。こちらへどうぞ」
YouTubeシナリオ版の解説
YouTubeシナリオは、二種類あります。
漫画のコマで進むバージョンと、スカッとLINEバージョンです。
前者は漫画原作やラジオドラマに近く、後者はテレビドラマやラジオドラマに近い書き方でしょう。
今回は、スカッとLINEバージョンで書いています。
いずれにせよ、YouTubeはシナリオ知識がなくても書けます。クラウドソーシングサイトに案件があり、普通のライターが書けるくらいですから。
ただ真剣に書けば、かなり難しいです。書き方もですが、ネタ探しが一番大変でしょうね。似た内容も多く、いいものがあればパクられる。
さくっと見れる分、すぐに「次!」と求められ、消耗品扱いされるのが悲しいです。
作品作りで重要なこと
いかがでしょうか。媒体ごとの違いが、なんとなく掴めたでしょうか。
私自身が未熟なため、上手い文章が書けないことが歯がゆいです。
サンプルを踏まえて、理解すべきポイントをご紹介します。
媒体ごとに見せ場が違う
媒体の特徴を掴むことで、作品の面白さを引き立てられます。
ネタを媒体ごとの特徴に合わせることで、面白さが際立つでしょう。
また、ネタごとに媒体を使い分けるのも良いですね。私はそうしています。
ただし勘違いしてほしくないのが「このネタだとできない」「この媒体だとできない」というのではないこと。
中には不可能なネタもありますが、見せ方や切り口一つでいくらでも挽回できます。
決められた中で、いかに面白い作品が書けるか。それが作者の腕の見せ所になります。
主人公の意図や感情で物語が変わる
主人公の考えや意図・感情や目的によって、行動が変わることを理解しておきましょう。
食べるからお腹がすくのではなく、お腹がすくから食べるのですね。
今回は同じシチュエーションを使ったのに、媒体ごとで主人公の印象が違ったのではないかと思います。
読者の印象は、行動によって決まります。
その行動を決めるのは、意図や感情。
先に意図や感情を決めておかないと、行動がチグハグになり、読者に違和感を与えます。
ぜひ主人公の考え優先で物語を組み立ててくださいね。
表現する媒体によって強みが違う
本記事のまとめは、次のとおりです。
- 媒体により、特徴が違う
- 媒体に合った表現で、面白さが際立つ
- ネタから媒体を選ぶのも可
- 主人公の意図が違うだけで、まったく別の話になる
- 主人公の行動で、読者の印象が決まる
簡単に書いてますが、上記はかなり重要で難しい部分でもあります。
理解できないからといって、凹まないでください。また、頭では理解しても、腹に落ちる・実行できるには、さらに年月がかかります。
物語作りについては、こちらの電子書籍で解説しています。「もっと知りたい!」と思う人は、ぜひ参考にしてくださいね。kindle Unlimited会員は無料で読めます。